三行社説 2007. 3
3月1日 (木)  福井日銀総裁が決定を下した利上げの真意は何なのか

2月28日の東証株式市場が、前日の中国・米国株の急落という事態を受け、
全面安の展開となり、日経平均525円安の大暴落を喫した。
世界同時安の様相であると新聞各紙は報じている。
確実に日本の景気は悪くなるだろう。
しかも拍車をかけて。
そう思わざるを得ないことが先月に起きている。
日銀の短期金利の引き上げ決定の報がそれだ。


2月21日、日本銀行は金融政策決定会合の結果として短期金利を0.25%引き上げる決定を下した。
その決定は、通常であれば政策委員9名全員が賛成して決定されるべきものであるにも関わらず、
反対者を数の論理で押し切っての可決であった。
賛成者3名反対者6名という1月に行われた会合の結果と単純に比べれば
今回打ち出された結果は賛成者8名vs反対者1名ということで、絶対多数による可決のように見えるが、
反対者が出ても可決に至った金利引き上げ決定策というのは、かなり久しいことなのである。


1月の会合で金利の引き上げが順延となった背景は
日本経済のデフレ・スパイラルの底がまだ不透明であったからだろう。
ではその時から1ヶ月しか経っていない時に発表された景気の大幅回復を
我々は本当に信じて良かったのだろうか。


日銀が金利引き上げ策を実施した根拠は2月15日に内閣府が発表したGDP統計、
消費が大幅な伸びを示しているという速報であると言われている。
しかしその一方で、総務省の家計調査によれば、去年の消費は前月とも対前年比マイナスだったという
消費不振の報告も行っているのだ。


このねじれ現象の中、なぜ日銀は利上げを発表したのかを考えると、
1つの理由は、決定のずれ込みにより7月の参議院選での与党の選挙展開に
大きな悪影響を及ぼす可能性が大きいからだろう。
金利の引き上げの影響はおよそ3ヵ月後に出ると言われている。
3月に決定すれば6月の景気が冷え、4月であれば7月、つまり選挙前後に影響が出る。
与党の承認を得るには2月に決定するしかなかったのであろう。


もう1つの理由は、今年5月に施行される三角合併の解禁、
つまり外国企業が子会社を通じて日本企業を買収できる制度の解禁と
日銀福井総裁の思惑というのが実は大きく絡んでいるように思える。


日銀の福井総裁の名前を聞いてまず思い出されることは
彼は村上ファンドへの拠出金問題である。
村上ファンドは、デフレにより地価や資産の価値が目減りし企業体力が脆弱化した企業の株を
報の目をくぐり買い占め乗っ取り、資産を転売するというビジネスで急成長した会社であるが、
福井氏はその会社の設立時に出資していた。
にも拘らず、総裁職に居座ったほどの人物であり、
現在日本が抱える格差社会およびデフレ経済を推進した、
いわば弱肉競争型資本主義の信奉者でもあるとも言われている。
もしその人物が、今度は5月に解禁される三角合併時乗じて
海外の投資ファンドが行おうとしている同じ型の企業買収を容認し、
さらに促進させようとしたらどうなるのだろう。


金利が上がれば円高と株安が起きる。
企業、特に中小企業の資金調達は一層難しくなり、企業体を維持しきれない会社が出てくる。
M&Aが進む昨今、いくら同業種間で「ホワイト・ナイト策」を行ったにせよ、
一日本企業の規模は拡大すれども、保持する総資産は一時期マイナスに転じざるを得ない。
相殺という形で国内の資本を目減りさせるよりは、海外企業の資金を導入し買い上げてもらったほうが、
長期的に見れば経済が安定傾向になる、
つまり日本経済はそこまでなりふり構っている場合ではない状況に陥っている、
もしくは意図的にそうした社会構造を作ろうとしているのではなかろうか、あくまで想像上の話であるが。


万が一そういうシナリオがあるとすれば、今回の東証株価全面安は
とてつもないデフレ・スパイラルを再度作り出すだろう。
そして将来、日本という国自体が大きな資本に買い取られる時代が来るのかもしれない。


日銀の金利値上げの報を受けた当日そして翌日と、株価は安定し円レートも上下しなかった。
ここに日本経済の底力を見たような気がする。
しかしその後円高は徐々に進んでいった。
そしてこの株価暴落。
企業はどう身を守っていくのだろうか。


日本国の金融の責任者が判断を誤ったとは思いたくないし、
ましてや恐ろしい現実が裏で動いているとは思いたくもない。
しかし金利政策の強行実施や、世界の金融の動向に対する予知能力や情報収集の脆さを考えると
船の舵取りの失敗では済まされない現実が、ひしひしとこの身に迫っているような気にさせられた
一連のニュースであった。




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